現代俳句鑑賞 筆者 今野好江
人が人へ闇を作りて螢待つ 岩淵喜代子
『俳句』九月号「半夏生」より
水のほとりの闇にたのしむ螢狩。昔、「腐草螢となる」といって草がむれて腐って蛍になると信じられていたという。そういえば蛍の闇には隠微な一面がなくもない。
人殺す我とも知らず飛ぶ螢 前田普羅
身の中の待つ暗がりの螢狩 河原枇杷男
掲句の〈人が人へ闇を作りて〉の措辞に一瞬ドッキっとする。
人の心の闇、即ち心の迷いうぃいうのか―。
虚実を軽々ととび越える機知が自由な発想となり、一句の振幅を広げる。そこはかとない哀愁も魅力的である。