『森』2012年11月号  主宰・森野稔

受贈誌拝見     筆者 森野稔

ににん 
   平成12年秋、埼玉県朝霞市で岩淵喜代子により創刊。意欲的に新企画に取り組みたい。(『俳句年鑑』2012より)

 本号は3012夏号(通巻四七号)である。俳句に評論にと意欲的な同人誌であることが一読して読み取れる。そのトップを飾るのは「物語を詠む」。物語のリストの中から選んで作品二十四句を発表する企画で今回は三名が参加。
 高橋治の『風の盆恋歌』を詠むのは、宮本郁江。
  夜流しの踊か坂を降りゆけり
  輪踊の夜ふけて雨となりにけり
  水滴を言して重き酔芙蓉
  ぴんと脹る蚊帳の中まで胡弓の音

 三島由紀夫の『金閣寺』を詠むのは、及川希子。
  月光に捕らはれ女の不動明王
  遅桜どもりどもりて咲き出せる
  金閣寺の空広げる火事明かり

 宮木あや子の「花宵道中」を詠かのは、伊丹竹野子。
  音もなく粉雪めぐる常夜灯
  霧晴れて男の記憶戻りけり
  夕焼けの天従へて糸桜
  朝霧に匂ひ立つ身を委ねけり

 会員の作品発表の場は「ににん集」(作品発表者三十一名)と「さざん集」に分かれている。「ににん集」はテーマが決まっていて今回は(毎号テーマが変わるのかどうかは定かではないが、)「火・灯」である。作品のすべてがこれに関連している。意欲的な作品を抄出してみる。

  遥より声のあつまる螢の火          浜岡紀子
  芝居小屋閉めたる後の春燈         山内かぐや
  ポスターの女の頬に灯蛾とまる       新本孝介
  蛇衣を説ぐや日蝕近づき来          川村研治
  声高し野焼の朝の集会所           佐々木靖子
  ナイターのなかなか落ちぬフライかな    服部さやか

 次に「さざん集」から。これは自由題のようだ。

  穀象に或る日母船のやうな影         岩淵喜代子
  万の鶴引きて一つの鶴の墓           宇陀草子
  形代を集めに町内会長来           河邉幸行子
  白衣干す夏と未来がぱんぱんに        木津直人
  触るるほどに並んで五月晴れの道       四宮暁子
  春分の前をゆく人ゆったりと          高田まさ江

 評論も充実。特に「この世にいなかった俳人⑥」岩淵喜代子が原石鼎について丹念にその軌跡をたどっている。浅学の私は「頂上や殊に野菊の吹かれ居り」が吉野での作とは知らなかったし、石鼎の吉野への傾斜の深淵に触れて、私の眼が聞かれた思いがする。

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