『天為』2012年8月号 主宰有馬朗人

白雁句集評
『天為』2012年8月号 主宰・有馬朗人

新刊見聞録    筆者 矢野玲奈

岩淵喜代子句集『白雁』評 
「ににん」代表の第五句集。あとがきに「句集作りは、今の自分を抜け出すための手段のような気もしてきました。」とある。 

万の鳥帰り一羽の白鳥も
句集の題になった句。万の鳥から一羽をクローズアップする。作者も白雁のように目立つ一羽。抜け出そうとしている一羽。
幻をかたちにすれば白魚に

幻は形にできないもの。一方、白魚は小さくとも幻ではない。それでは、白魚を他の季語に言い換えてみることができるだろうか。他の季語では、重量感や質感が意識されてしまって幻から遠くなってしまうような気がする。
花ミモザ地上の船は錆こぼす
登山靴命二つのごと置かれ
船や登山靴の存在を大きく堂々と描く。構図がしっかりとしているのは、ユニークな題材でも同様。

十二使徒のあとに加はれ葱坊主
月光の届かぬ部屋に寝まるなり

葱坊主が一列に並んでいる様子を直接描いていないのに、読み手に映像を結ばせる。
狼の闇の見えくる書庫の冷え
今生の螢は声を持たざりし
尾があれば尾も揺れをらむ半仙戯

一方、心象的な作品は、季語の持つ抒情性を活用し、読み手に想像させる余地を与える。人気の無い静かな書庫と狼の闇が繋がっているという感覚。螢は声を失い、人間は尾を失う。漂う喪失感から代わりに得たものを探したくなる。
いわし雲われら地球に飼はれたる

存在するものとしないものを読む作者。その判断基準は地球。次に抜け出すのは地球かもしれない。

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