二冊が一つの箱に収まった生涯の一書と言っても大袈裟ではない。所属していた『街』の主宰は――喜田進次は五十五年をかけて「喜田進次」を脱ごうとしていた。脱皮する痛みが言葉になった。 本書はついに此岸から飛び立った進次の羽化直前の連続カットである。――と書いている。1952年~2008年。55歳で没している。
おぼろ夜の動かざる水巨きかり
銀行の前がさびしき天の川
猫去つて畳の上に秋の海
粕汁や先祖ぞろぞろあるいて来たり
綿虫に石の大きな息ありぬ
年の市川を見て時計合はせをり
一編を通して、作者の志向や表現の質は統一している。後半の作品は理が濃くなっているが、全編を通して並々ならぬ独創性を求めようとする姿勢が見えてくる。
詩集は後書きによれば詩集のタイトル通り、最晩年の熱量高い独白である。
秦と申します。句集「進次」を取り上げてくださって有難うございます。名も無いまま没しました人の、せめてもの句碑として作りました本です。彼の心情はともかく私はこの文章に救われる重いです。有難うございました。