『百磴』2012年9月号 主宰・雨宮きぬよ

現代俳句鑑賞    筆者  小岩 浩子

  藁屋根の藁の切口夏燕         
  晩年は今かもしれず牛蛙
  着水の雁一羽づつ闇になる

岩淵喜代子句集『白雁』角川書店刊
 二〇〇八年に上梓した第四句集『嘘のやう影のやう』に次ぐ第五句集で三〇八句が収められている。
  加藤楸邨、坪内稔典の晩年の作風を例にあげ、「等身大の自分を後追いしても仕方なく、句集作りは今の自分を抜け出すための手段のような気もしてきました」と綴られている。
 一句目、最近は特に保存された地区でもないとなかなか目にすることが出来なくなったが、どっしりと厚みのある藁屋根の軒の切り口の潔さは見事と言うほかは無い。折しも周辺の植田に影を写して燕が飛び交っているのだろう。日本の原風景とも言えるような落ち着いた気持の良い景が広がる。
 二句目、この世に生を受けたもの、誰しも年を重ね晩年に達するのだ。けれど自らの晩年は未だ先と思いたい。腹の底を抉るような牛蛙の声を聞いた瞬間、突然今が将に晩年かもしれないと感じたのであろう。中七の表現に同したじろぎを憶えた筆者である、
 三句、雁や鴨類の着水は降り立つというより落ちてしまったのかと思えるように無様な気がするが次の瞬同平然としているのも面白い。涼やかな風に促されるように数羽の雁が塒の水場へ下りてくる。一瞬上がる水音、そしてそのまま姿は見えなくなるのだ。下五の表現から雁の着水様子と周辺の静けさ、迫り来る夕闇の深さを彷彿する。
 日々の生活の場から少し問を置いたように感じられる作品はご自身の言われる「自分を変える旅」の先々に作者が見詰めようとしているものなのかもしれない。   「ににん」代表

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