感銘句逍遙(23〉 筆者 森野稔
椎匂ふ闇の中より闇を見る 岩淵喜代子
椎の花は大木になり六月頃に雌雄別々の穂状花をつけて独特の強烈な匂いを発散する。暗がりの中にいてもそれだとわかる。夜、歩いていたら匂ってきた。作者は椎の木がどこにあるのだろうと闇の中を見透かす。闇の中でもそれとわかる巨大な木の塊がありその木下にはひときわ濃い闇がある。「闇」というリフレーンの異相に注目。「先ず頼む椎の木も有り夏木立 芭蕉」先日大津の国分山にある幻住庵を訪ねてきたばかりの私にとって椎の木はことさら身近に感じられる。当日は若葉だったが、咲き始めの花もあるらしく、匂いとともに穂伏の雄花が落ちていて庵守の男性が箒を手にしていた。「俳壇」六月号より。