この句に立ち止まると、ほとほと俳句は描写力だと思うのである。杜若の周りは水面であることは当たり前のこと。その当たり前の風景が「余白」という一語によって独創的に立ち上がってくるのである。
人は意識したものしか見ていないものである。花を見にゆけば、花しか目に入らない。一句は花から離れて水を見て、再び杜若の姿を立ち上がらせている。
(かげろふにひとりひとりのふたりかな)・(しらうをの影はしらうをより濃かり)・(ゆきずりの茅の輪とみればくぐりけり)
現代俳句文庫『村上喜代子句集』 2015年 ふらんす堂