ギリシア神話では、葡萄はバッカスの所有物とされ、栽培もまたバッカスの手によるものと言われている。「ノアの方舟」で有名なノアが洪水の収まった後に、最初に植えた植物も葡萄だったという。こうした歴史を持つ葡萄は世界中で栽培されている。
最近は品種改良が進んで、見事な大粒葡萄を店頭に目にする。掲出句の(むくむく)はまさに大粒の葡萄の特徴を視覚から置き換えた言葉である。
さらに(むくむくと智慧のかたまり)となるとき、びっしりと重なり合う葡萄の一房の重量感が際立ってくる。草田男に(葡萄食ふ一語一語の如くにて)があることを知れば、掲出句は弟子としてのオマージュであろう。ほかに、(凧の子に空の全円平城宮址)(障子閉づなにやら大事断つごとく)(かきつばた影のごとくに尼通る)(散りなむとしてなみだいろ根尾桜)など。(鍵和田秞子句集『濤無限』2014年8月 角川学芸出版) (岩淵喜代子)