岸本尚毅句集『小』 2014年3月  角川学芸出版

頭から肘へつたはる甘茶かな
猫の如く色さまざな浅利かな
植ゑし田のさざ波遠くゆくが見ゆ
夏楽し蟻の頭が蟻を踏み
わが前に暗き新樹として立てる
新涼や肘より遠きたなごころ
眼のふちに水の来てゐる秋の蛇

本当は一句を為すまでのストーリもあるのかもしれないが、作品のどれにもその苦心の痕跡はのこらないので心安らかに味わっていける。それが岸本ワールドなのだと思う。浅利の模様を猫に見るのも、蟻を拡大した提示の仕方も、何事もない日常を(肘より遠きたなごころ)によって作品化しているのも、技というものを感じる。

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