『天頂』2012年9月号 主宰・波戸岡旭

句集紹介  筆者 村越陽一

『白雁』 岩淵喜代子

湖に夏満月をそだてをり
雛あられ食べる作法のみつからず
蜃気楼眼鏡が役にたたぬなり
決闘の足取りで来る鷹匠は
くれないゐを品格として薩摩芋
円卓のどこも正面虎落笛
牧開くとて一本の杭を抜く

 読後感の印象は、月下独酌の感。このままどこかに運ばれてゆかれそうな浮遊感を覚えた。句集名は〈万の鳥帰り一羽の白雁も〉の句から。作者は、「あとがき」に、加藤楸邨、坪内稔典・原石鼎らの作法を取り上げつつ、「書くことは、「生きざま」を残すことだと錯覚してしまいそうですが、等身大の自分を後追いしても仕方がありません。句集作りは今の自分を抜け出すためのような気もしてきました。」と独白の俳句観を示しておられる。

耳飾り外す真夜にも海猫啼けり
病葉も踏めば音して哲学科
大花野越えきて襁褓まだとれぬ
杉花粉情報刻々子持鯊
雪女郎来る白墨の折れやすく
蟻地獄どこかで子供泣いてゐる

また、次のような特異な季語を使われているのが散見、印象的であった。浮塵子、海雀、アメリカ白灯蛾、白茯苓茸など。
 句集の掉尾は「東日本大震災」の前書きを置いて

青空の他は子猫の三つ巴

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