僧に向き檀家に向きて扇風機
つくづく俳句が「視る」いう行為から生れるものであることを感じる句集である。扇風機の本位をきわめてリアルに、それでいて扇風機以外の何者でもない詠い方が現代的である。
民宿の庭に伏せたる若布刈舟
夜桜を見回りの灯のよぎりけり
鷹狩の軍議のごとき打ち合せ
続き咲く花に初花紛れゆく
虫干の巻物伸ばす廊下かな
御旅所にどつかり座り何もせず
回送のバス涼しげに走りさる
あとがきの最後に「20代最後の日に」と書き込んでいることで自ずと年齢が分かるまだ若い作家である。そのあとがきを見ないで読んでいたときにはもっと年齢を重ねた俳人かと思ったほど着実な写生句で好感のもてる句集。『セレクション俳人・プラス・選集21』に収録されていた作家の第一句集である。