映画「木洩れ日の家で」

見ようと思い立った時に見ておかないと見ることの出来ないものもある。『初国知所之天皇(はつくにしらすめらみこと)』は34年ぶりの上映、しかも明大前のキッド・アイラック・アート・ホールでしか見られない映画なのである。「日本書記」と「古事記」をテーマに日本全国を旅した記録である。7月3日は行く予定でいたのだが、思わぬことで行けなかった。この映画は同じ場所で2月にも上映したらしいので、また少し経ったら上映するのではないかと期待している。

岩波ホールでの「木漏れ日の家で」もまた人気だったようで、神保町まで出かけながら見ることが出来なかったが、武蔵野館で短期間の上映があってやっと観て来た。森の中の古い洋館は、日本の昔の建築物にあるような木枠に縁どられた硝子窓の張り巡らされた家。町に住んでいる息子夫婦とは疎遠で、孫もあまり寄りつかない。そんな家で飼い犬を相手に日々を送る女性は90歳を越えている。

実際の女優も80歳を越えているポ-ランド生れのダヌタ・シャフラルスカ。顔を確かに老婆であったが、シルエットになるときの女性のスタイルは美しい。特別な事件が起こるわけではない日々でも、静かに人生は動いてゆくものである。映像のすべては森の中の古い屋敷の中の生活なのだが、実生活、すなわち食事作りや食事風景は映さない。思い出と生きる老いた女性の我行く末を見詰め続ける内面をさり気ない表情で写し出している。

町に住んでいる息子夫婦は母と共に暮らそうとは思わないが、隣へ母の住んでいる家を売る交渉に来ていた。それを見てしまった女性は、反対の隣の音楽教師をしている夫婦に寄付を申し出る。公証人を立てて、ピアノの下の床下に隠して置いた宝石を取り出して、家の修理代に差し出す。修理も出来て、一階だけは音楽教室として使い初めて、子供たちのにぎやかな声に顔を和ませていた老女はある日、いつもの椅子の上で、犬を傍らに死んでいた。

ここに登場する犬が、この90歳を越えた女性の唯一の話し相手である。大方はこの犬との会話で物語は進行していた。隣の家に夜こっそりと息子夫婦が来て、女性の家を売る相談をしているのも、犬が見付けて教えてくれたのである。女性は結婚して、息子を育てた家をこのまま残したかったのである。庭には木の枝にかけたブランコが今も揺れている。

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