磯辺勝著 『江戸俳画紀行 -蕪村の花見、一茶の正月』 中公新書
「ににん」の創刊から書き始めた「江戸俳画紀行」はいつも注目されていた。それは一般の俳人があまり足を踏み入れない俳画であることより、その読ませる文章にあったと思う。と言ってもレトッリク的な文章ではない。
評論のような固い言葉もつかわない。きわめて普段の言語で綴る語り方が巧い。多分語り方が巧いのも、熟知に熟知をかさねた蘊蓄にもあっただろう。勿論ペン一本で生活しているプロで、NHK出版「食彩浪漫」には毎月、食の絵について語っている。
現在は一パーセントほどの可能性だけど「俳画紀行」を本にしてくれそうだ、と言っていたのは半年前くらいだったのだろか。多分そう口にするときには80パーセントくらいは進行していたに違いない。帯に蕪村の花見又兵の絵と「うまい へたより この境地」というコピーがある。
読み進むと磯辺さんの思想のようなもの、生き方のようなものがじんわりと沁み込んでくる。それは主張するというのではなく、こっちのほうが好きだなーというくらいの軽さで蕪村にたどり着くのである。聖俳と呼ばれる芭蕉とは全く反対の世俗の生活者の蕪村が好きだという件には、
ーーこういう生き方に、私はすべてこれ共感である。蕪村は死んだ人間のことをよく「あっち者」といったが、彼はとりあえず、「こっち者」でいることしか信じていなかったと思う。--
連句があれだけ「じか付け」がいけないと言われた時代に、なぜ俳画がべたつきの絵をかくのだろうかという疑問を解いていったりし、この一冊を読むと、俳画のみならず、近世の俳人図が明瞭に見えてくる。 ににん