3冊の句集

松村多美著句集『紅葩』  本阿弥書店刊

いのちあるものの苦さよ鮎の腸
欠伸する河馬にも着せむ花衣
夜祭の果てて雑魚寝に加はりぬ
もみくちやも尊し四万六千日
ひつぱりて尾の柔らかし虎尾草

一句目の生への意識と鮎の腸の苦さの取り合わせ。しかし、作者は苦さとはいいながら、人生のありようを失望しているわけではない。二句目の滑稽・三句目の風土性、秩父の風土を現している。四句目の自然悟道・五句目の本意への迫り方のそれぞれに、作者の生き様が見えてくる。
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菊田一平著句集『百物語』  角川書店刊
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ひとつひとつの
句があつまって
私なりの俳句空間を作りだせたらという
願いを込めて
「百物語」という
タイトルにしました。
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という作者の意思が帯に書き記されている。もう一つの意思は百物語を夏の季語に位置付けていることである。「百物語十一段は母のこと」「にぎり飯出でて百物語果つ」の二つが、夏の部に挿入されている。

なやらひの鬼の寝てゐる控への間
花すでに散りて大きな桜の木
伯爵の墓のまはりの芝桜
お祭の今日が始まる鶏の声
仏蘭西へ行きたし鳥の巣を仰ぎ
十月や象が鎖を引き戻し
手の届くあたりにありし恋歌留多

さりげない表現ではあるが、人生というものが、心の奥に沁み込んでくるような作品ばかりである。

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武田肇著 句集『海軟風』銅林社 200部限定

手にしたとき短冊が送られてきたのかと思った。縦が40センチで横が10センチ弱。これもA4の変形というのだろうが。とにかく細長い句集である。1ページの幅が10センチほどなのに、ページごとに2句が収められている。詩人であり編集者であり、そして俳句にも手を染めている、という感じに見受けられる。『星祭』から15年目の第二句集である。

をんな二人湯を掛けあふや朧月
見返れば来し方もなき棉の花
少年の鐵気ほのかに西瓜食ふ
ボート屋の娘銀河の戸を閉める
天の川ここは螢の焦げる川
冬蝶の燃えるが如くうせにけり

ひとことで言えば感覚的ということになるが、俳句という分野が物で語るということを意識しているのか、どのように見えるかという切り口から作品化している。そうした中で、最後に抽出した「冬蝶」の句などは生まれたのではないだろうか。

とにかく力まないと読めない句集だ。力まないと、というのは作品の内容ではない。本の形である。丁度、高窓から部屋を覗く為に爪先立ちの力みが必要なように、この本は、読むページを両手に力を入れて開いておかなければならない。少しでも手を緩めると、即座に音を立てんばかりにしっかり閉じてしまう。   ににん  

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