柴田奈美句集『黒き帆』
中原道夫氏の帯に「物語性のある俳句」という一文がある。
さびしさを黒に徹して揚羽飛ぶ
揚雲雀天界の鍵落としけり
日のぬくみ重し重しと冬の蝶
風鈴を吊るす男を踏み台に
「さびしさ」「鍵」「重し」「男」などのことばが、虚と実の狭間が読者に様々な想像を呼ぶ。
杉良介句集『四神』
「狩」同人。四神とは、四方におく神獣のようである。
水族館出でて緋鯉に餌を撒く
秋蝶が過ぎ猫が過ぎ日曜日
一杓の寒九の水を身に通す
干し傘の仰向けとなる電波の日
調和のとれた本質を見ようとする眼を感じる作品。
国井克彦句集『森の蝶』
手作りの句集『森の蝶』 A4判のコピー用紙をそのまま使った手書きの句集である。一ページに20句で36ページということは膨大な句数である。それを何度も納得するために、ページを繰ってみたりした。表紙から奥付けから、そしてまた俳句のページを読むよりも先に何度も繰った。それほど、みごとに丁寧に作っているのである。最後に限定30部の文字にまた、留まってしまった。貴重な句集である。
国井勝彦氏の詩集の表題は「丘の秋」「月明かり」など俳句的だなーと思っていたが、作品は、詩とは違って今度は誌的だなーと思った。
要するに詩と俳が融合しているのだろう。
追憶の如くに群れる森の蝶
扉に、色紙仕様で書かれた俳句である。中でも一番詩的な俳句である。
大根をごろりと置きし机かな
手の中の胡桃の位置を移しけり
そうですよ六十三です秋刀魚焼く
古雛や灯かげに笑っているごとし
千年の昔見ている沢桔梗
梔子の実が抱いている海の色
朔太郎余寒の隅に置いている
早春や名の無き草は無かりけり
冬董咲いて病気の百貨店
独り食うサトウの御飯鑑真忌
薫風や六十年という時間
教祖様机叩いて汗かいて