仔馬すぐもどるつながれたるごとく
引つかけし捧ごと放り蝌蚪の紐
海かけて飛んできちきちばつたかな
しぐるると麒麟は首をもてあまし
一樹よりわが寒林ははじまれり
波の音踏めば踏まるる凉夜かな
阿修羅像わが汗の手は何なさむ
冷麦や十年は舌滅ばずあれ
日向ぼこより父帰らず母帰らず
われは人に汝はなまこに生まれたる
朝な朝な生活の雪を踏み固め
氷海をいま火の海と思ひけり
ーー私なりのスタンスで正面から俳句形式と対峙する毎日であったーー、という後書きを重く受け止める一書であった。初めに揚げた六句には物の本質を捉えようとする意志が見え、後者の六句には俳句表現方法への切口が見える。