黒田杏子著 『俳句の玉手箱』 飯塚書店
何回か上梓しているエッセイの延長で、黒田杏子ならでは交友関係から得た物語、逸話、そうして旅が、独特の世界を展開している。話題は手書きで行なう原稿・独特のモンペ姿・桜巡礼など、多岐にわたるが、この作家ならでは出会の感動を、読み手も一緒に共感してしまう。
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谷口麻耶著 『祖父からの授かりもの』 朝日新聞
著者の祖父であり、「法句経講義」で知られる宗教家友松圓諦の生涯を、書き記したもの。努力家で、ハイデルベルク大学やソルボンヌ大学にも学び生涯「法句経講義」に費やした宗教家。それを、孫娘としての視線で書いているので、身近な感覚で読進んでいける。
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鳥居眞理子著 句集『月の茗荷』 角川書店
この作家の作品は、取り合わせの妙をふんだんに発揮しているが、それだけでは収まらない。そこに彼女独特の感覚で構成された虚空が出来上がるのである。
海は波を育ててはるか梨の花
からだごと僧衣の立ちて茄子の花
白日傘昼の手足をつれてゆく
母は父のところへゆきまま土筆
これらの句の、なんとさりげない描写力であることか。海の波立ちを「海は波を育ててはるか」。僧の立上がり様を「からだごと僧衣の立ちて」、そして日傘の「昼の手足をつれてゆく」の工夫ともいえるが、この作家の感覚なのである。
体温計ゼロにもどして鶴来たる
鶴帰る日の針箱に針がない
仏壇の中の階段鶴来たる
生春巻の中のにぎはひ荷風の忌
この句集の最も好きなところは、取り合わせの妙。春巻きの切口からのぞく俗っぽい色彩を「にぎはひ」といいとめて、荷風と結びつけた感覚。