俳人協会の句集と評論の両方で新人賞受賞している作家の第四句集。その洗練された表現方法にも、第四句集までの蓄積が伺われる。
あしあとがつづく凍湖のかなたまで
十薬やこの世にかよふ波の音
みづうみにすきとほりゆく花筏
青林檎雲の中へと鉄路消え
つやつやと寒の蜆の粒そろひ
ねむりたらざればねむりて沙羅の花
寒蜆啜りてよもつひらさかへ
吸呑に手の届かなざる霜夜かな
けふを臥すほたるぶくろにあすも臥す
「あしあとが」「みづうみに」「寒蜆」などの句に、どこか遥かなものへ視野を投げている姿勢が感じられる。このことが今回に句集の大きな主題になっていると思う。
行方を確めようとする鉄路は先が消えていて、近くはすぐそこの「吸呑」に手が届かないというもどかしさ。そして今日も臥し明日も臥す生活を、怜悧に言い留めていることで、読み手も救われている。