ゴーヤの花

アンの店先に置いた植木鉢
花をつけたゴーヤがひょろひょろと伸びていた
八月になるのに花だけというのも遅れている
麻里伊さんは発育の悪さを気にしていた

突然澄子さんがゴーヤーの一花を摘んだ
何をするのかと思ったら
その花で咲いている花を叩きはじめた
ぽんぽんとまるで
パフで顔を叩くような軽さで
人口受粉をするつもりなのだ

みんなはその手際を後ろから眺めていた
鉢植えとは言いながら
ひとつひとつの花の受粉は時間がかかりそう
みんなは眺めては店に入り
また出てみたりしていた

私はその始終へ一回も席を立たなかった
それというのも私の位置は
ひょろひょろと伸びたゴーヤの苗のガラス越し
その手際もそれを打ち眺めるみんなの顔も
真正面からよく見えるのだ
見ている方も疲れてきた

そんなことやらなくてもと呟いた
うちの庭のゴーヤはきりもなく実をつける
男性たちもそう思っていたのだろうか
誰も受粉の手際を眺めに
店を出ていくことはしなかった

ひとしきりの受粉作業が終ってから
澄子さんはゴーヤの苗から距離を置いて
苗全体を見渡した
それから思い出したように
ぽんぽんと花を花で叩いた
取り残しがあってはならないとばかりに

みんながぞろぞろテーブルに戻った
受粉作業がやっとおわったのだ
そんなことしなくっても生るわよ
私はたまりかねて呟いた
だってねそれは蜂さんや蚊さんが
代わりにやってくれているからよ
と雅子さんが言った

天然自然の摂理とは誰も知らないところで
何かが働いているということなのだろう
あーというかたちに口をぽかんと開けて
わたしは大きく頷いた
月をさんの眸が雅子さんへ動いて
それからちらりと私へ動いた
去年の夏のことだった

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