今年の蛇笏賞は廣瀬直人・迢空賞は石川不二子・河野裕子。
廣瀬直人句集『風の空』から
降り足らぬあとの烈風一の午 金子兜太選
中空の風波うつて鬼やらひ
男らの声にゆとりや十夜粥
雪吊の中にも雪の降りにけり 大嶺あきら選
一卓に人隔てたる夜の秋
涅槃図を掛けたる寺の庭通る
秋澄むといふことはりに日の沈む
行く鴨の遥かに声を失へり
剪定の千本剪つて日が落ちる
瀬がしらを上る鮠見しお元日 有馬朗人
枯蟷螂抜き差しならぬ眼がふたつ
夏神楽狐しばらく跳ぶばかり
空が一枚桃の花桃の花
存分の雷鳴北に甲武信獄
剪定の千本剪つて日が落ちる 宇多喜代子選
風吹き下ろす三日目の餅筵
正確な鳶の輪に入る袋掛
どの樹にも明ける空あり半夏生
空が一枚桃の花桃の花
存分の雷鳴北に甲武信獄
4人の選者で重なっている句は「空が一枚桃の花桃の花」「存分の雷鳴北に甲武信獄」の2句だけ。粒揃いでどれを選んでもいいような感じにも見える。だが何だか物足りない。ここに挙げた作品に、一句だに震えるような感動を覚えないのは私の鈍感さかもしれない。たとえば、
大寒の一戸もかくれなき故郷 飯田龍太
龍太のこの一句に並ぶもの、いや近いものでもあるのだろうか。無いとすれば、句集全体の総合点としての受賞と理解するしかない。 それでは、作品が後世に残らないのではないだろうか。