〈句集を読む・渚男〉
『嘘のやう影のやう』 岩淵喜代子
多喜二忌の樹影つぎつぎぶつかり来
箒また柱に戻り山笑ふ
ずぶ濡れの欅の並ぶ大試験
湯気立ててゐる闘牛の通り道
停車まで出口に立ちて花の旅
花吹雪壺に入らぬ骨砕く
針槐キリストいまも恍惚と
夕顔の花にゆきつく恋心
日陰から影の飛び出す師走かな
この人は一九三六年の生まれ。原裕の「鹿火屋」、のちに川崎展宏の「詔」に所属。現在「ににん」代表。これは第四句集。〈雫する水着絞れば小鳥ほど〉〈桐一葉百年待てば千年も〉〈それぞれの誤差が瓢の形なす〉のような作品も魅力的だが、私は形象感に優れたこのような句を選ぶ。技量確かな作家と思われる。(二〇〇九年二月・東京四季出版)