『鴫』2009年5月号・主宰井上信子

   句集『嘘のやう影のやう』       評者  石田きよし

「ににん」代表の第四句集、300句。

     嘘のやう影のやうなる黒揚羽

句集名になった句。蝶を見ながら「嘘のやう」と虚の域の昇華するのが深い。同じような手法、

    春眠のどこかに牙を置いてきし
    運命のやうにかしぐや空の鷹

など、枚挙に暇がない。この句集が、平成20年度俳人協会賞の本選まで残ったのも頷ける。その際「独自のものを詠もうとする意欲(黛執氏)」が評価されている。

    白鳥に鋼の水の流れをり
    眠れねば椿のやうな闇があり

などの着想は独自というより、自在な境地にあると言えようか。ここで東京生れの作者の都会感覚の句群に注目したい。

    春深し真昼はみんな裏通り
    古書店の中へ枯野のつづくなり

古書店へ続く枯野は時によっては青野にも海原にも変るのであろう。
栞に齋藤愼爾氏が「悠揚迫らぬ態度で、密かに陸沈している」と作者を紹介しているが、時空の自在性も魅力である。

     桐一葉百年待てば千年も
     百年は昨日にすぎし烏瓜

この句集のもう一つの読み応えは、思い切った比喩にある。

    雑炊を荒野のごとく眺めけり
    雫する水着絞れば小鳥ほど

骨太の句群の中に、女性らしさの漂う珠玉の句。

   夕顔の花にゆきつく恋心

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