あたたかし

夕べの空に上弦の月が冴えていたが、今日も青天。
駅までを黒目川沿いの道を選んだ。鴨がよちよちと浅瀬を歩いていたかと思うと、泳ぎだした。足が届かなくなったのだろう。

岸に近い浅瀬に、水藻の一群のようにくろぐろと靡くものがあった。それが水藻だけではないのは、ときどき銀色に翻るとき明らかに、魚であるのがわかるのだ。それと一塊の端の影絵が明らかに魚なのだ。

だが、全部が魚なのか、それとも水藻に魚が群れているのかが分かりにくい。直径にしたら80センチ前後のくろぐろとした塊だった。魚の大きさは小振りの鮎よりもっと小さいのかもしれない。私は、小石をその黒い塊の近くに投げてみた。

魚は八方に散ると思いきや、そのまま全部で一斉に移動した。移動と言っても一メートルほど移動してまた大きな塊の振りをしていた。よくも、行動が揃うものである。

少し流れの早いところには、鯉が10匹ほど集っていた。ときどき、その流れの速いところを目指しているのは、上流に行く気なのか。その流れに出ては流されて、もとの場所に戻っていく。「少し流れが強いな」とでも言い合っているのだろうか。

それぞれが仲間意識を見せていて、魚の世界を覗いた気分になった。

          春の水岸へ岸へと夕べかな    原石鼎   昭和10年

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