『ベェニス 光と影』 新潮社1980年刊

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先月、古書店祭りの街を物色していて見つけた本。400円という安さにも惹かれたかもしれないが、写真が篠山紀信・文章が吉行淳之介であるので、手にとったのだ。ところが数件先の古書店ではほとんど定価に近い価格で売っていた。この豪華な名前なら、それが順当な価格だろう。本屋によって価格が違うものだなー、と思いながら帰途の電車の中で読み始めた。

淳之介は漠然と4泊5日の旅をしながら、「ヴェニスに死す」でも読めばいいかなー、と思っていたらしいが、結局とりとめもなく、町を散策したことが、文章になっていた。その文章に、ときどきちいさなチエック入っていることに気がついた。あー書き込みがあったので安かったのだと納得した。

①最初は、―ー橋を十分足らずで渡り切ると、風景は不意に汚れてしまう。湿った黒い土の上に立ち並ぶー―という何所の(風景は不意に汚れてしまう)の上に捧線が引かれていた。

②マルコ・ポーロの生家を訪ねる箇所の「その男を殺せ」にある。ガイドと「東方見聞録」の内容を話し合っている延長で、(その男を殺せ)と淳之介が冗談にいう、その会話。

③「仕事が忙しいんだから、もうここでいいですよ。ホテルの横っ腹のところに‥‥」の(横っ腹)に。

④「鐘の舌」

⑤「このレストランは退廃したね」
 食後のイタリア式焼酎を飲みながらーーこの二行の上にチエック。

⑥「よいお葬式を」 にチエックがある。

全部読み終わって、この読み手が不似合いな言葉にチエックを入れたのがわかる。たしかに、レストランが退廃したは相応しい表現ではない。「よい旅を」、とはいうが、「よいお葬式を」、などとは言わない。ひょっとして作家自身が書き込んだのではないか、などという妄想も抱いたが、新潮社では絶版になっている。

現在は、2007年の「魁星社」の再版が売られている。多少の写真の入れ替えはあったが、文章はそのままであった。 篠山紀信はこの本に挿入した以外の写真集『ヴェニス』を発刊しているから、写真を堪能したい人は、合せて読めば面白いかもしれない。

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