『百磴』 2008年11月号  主宰・雨宮きぬよ

 句集『嘘のやう影のやう』    鑑賞・ 遠藤真砂子
 
   暗がりは十二単のむらさきか
   花果てのうらがへりたる赤ん坊
   秋霖の最中へ水を買ひに出る

 第二句集『蛍袋に灯をともす』で第一回俳句四季大賞を受賞された著者の第四句集である。あとがきには「鹿火屋」故・原裕主宰、「貂」川崎展宏主宰、二人の師との思い出と、俳句は寄り道ばかりしてしまったと現在の心境を語られている。句集名は《嘘のやう影のやうなる黒揚羽》に拠る。
 
 一句目、華やかなその名からは想像もできないほど地味な花である十二単。その地味な花を見て、ふと口をついて出た言葉がそのまま一句となったように思える。「暗がりは」の措辞は地を這うように殖えるこの花を確と表している。又、下五は「むらさきか」と突き放したような表現であるが、作者は存外この花を気にいっておられるのかも知れない。

 二句日、赤子は一日、一日見ている間に成長する。桜の咲き始めた頃はまだ出来なかった寝返りが、花も終る頃には出来るようになった。初めてその時を眼にする喜びは、母親だけのものではない。家中の愛情を一身に集めている赤子の愛らしさが浮かぶ。「うらがへりたる」には、そのむちむちとした体つきや、力強さが想像され「花果て」の頃の何かほっとした気分も伝わり、微笑を誘われる。
 
 三句日、近頃は水道の水ではなく、ペットボトルに入った各地の冷水を愛用する人が増えている。いつ頃からの風潮であろうか。作者も秋霖の中、わざわざ水を買いに出たのである。いつの間にかそんな習慣が身についてしまったことを、やや自嘲気味に、客観的に眺めておられるのか。何でもない日常生活の一駒を掬いとられる作者の感性の鋭さを思う。そのほか〈雫する水着紋れば小鳥ほど〉〈運命のやうにかしぐや空の鷹〉〈雑炊を荒野のごとく眺めけり〉などの比喩の句の数々は、単なる比喩を超えて印象深く心に残った。 

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