六月一日 読売新聞
更衣したる鎌倉幼稚園 句集「嘘のやう影のやう」から
鎌倉は三方が山に囲まれ、もう一方は海。夏になれば町中に青葉が茂り、潮風が香る。鎌倉幼稚園は若宮大路沿いにある古い幼稚園。その更衣の光景を詠むが、鎌倉という土地の名前が生きている。緑に映える園児たちの真っ白な夏服。(鑑賞 長谷川櫂)
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『天為』六月号 新刊見聞録 句集「嘘のやう影のやう」評 深谷義紀
「ににん」代表の第四句集。句集を読み進むうちに、幾つかテーマめいたものがあることに気が付いた。
馬市に残暑の男集めけり
かすり傷つけて集る村芝居
もうひとり子がいるやうな鵙日和
これらの句では存在と不在。
百年は昨日にすぎし烏瓜
生きた日をたまに数へる落花生
五十年までは待てない冬鷗
これらでは「時間」。いずれも伸びやかな詩情を感じる。
他にも佳句は多い。
夏めくと腰にぶつかる布鞄
まるごとの己毛布の中にあり対象の捉え方に惹かれた
対象の捉え方に惹かれた 春眠のどこかに牙を置いてきし
それぞれの誤差が瓢の形なす
古書店の中へ枯野のつづくなり
一方、これらの抽象句は作者の感性が結実した作品と言え、共感できる。
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『向日葵』7月号 新書拝見 句集「嘘のやう影のやう」評 徳永亜希
嘘のやう影のやうなる黒揚羽
句集名となった句。「春陰」ほか七章に別れ297句の上梓である。
著者は1936年東京生まれ。現在同人誌『ににん』創刊代表。句集、共著句集、エッセイ集など数冊を刊行する。
釦みな嵌めて東京空襲忌
花果てのうらがへりたる赤ん坊
龍天に登る指輪の置どころ
針槐キリスト今も恍惚と自由にそして真摯に対象に向き合っていて好感が持てる。
自由にそして真摯に対象に向き合っていて好感が持てる。 三角は涼しき鶴の折はじめ
雫する水着絞れば小鳥ほど
古書店の中へ枯野のつづくなり
日出づる国の白菜真二つ
個性のある佳句が多い。今後益々のご発展をお祈り致します。