洗い場

以前は、坂上から洗い場のあたりまで、道が暗くなるほどの雑木の覆いかぶさっている道だった。わたしと同年代の土地の人が、昔は追剥ぎが出たのだと教えてくれた。追剥ぎという言葉さえ通じなくなりそうだ。洗い場がある頃は、そんな話が納得できるような木立の暗さがあった。ある農家の主婦は、以前は庭に専用の洗い場を作っていた、というのだった。

たしかに今も坂の途中から水が迸り出て、下水に吸い込まれていく風景がある。何だか勿体ないなー、と思うくらい水は絶えず溢れ出ている。しかし、誰も利用していない。むしろ、自分の土地にそんな水が湧き出ているのが迷惑だといわんばかりに無視し続けているようだ。私は通るたびに、その水を覗き込んだ。傾斜のある地面から湧き出た水は50センチほど離れた側溝へ、音もなく流れ込んでいた。小説「武蔵野夫人」の冒頭に詳しく説明が出てくる「ハケの水」である。

コメントをどうぞ

トップページ

ににんブログメニュー

アーカイブ

メタ情報

HTML convert time: 0.106 sec. Powered by WordPress ME