子猫さがし

 まだ、生む場所も定まらないうちに箪笥の抽斗で生んでしまい、しかもそこから出されてしまったせいか、新しい産屋に馴染まなかった。
 油断をしていると、子猫をどこかに隠してしまうのである。それが人の手に届かないような箪笥の裏、ピアノの裏と、つぎつぎに場所を変えてしまう。押入れなど、うっかり開けておくと、それこそ、中を空にして探し出さなければならなかった。いちど、連れ出されると、次から次へと居場所を変えるので、どうしていいか分からなくなった。 
 外出から帰ってくると、子猫探しは始まるのである。何処に隠れていてもいいのだが、分からないところで排便されていても困るのである。こんなときには、子猫から家猫としての躾が出来ていたほうが世話がないのかもしれない。与えた箱も気に入らなかったのか、馴染まなかったのか。珍しくて覗いていたのもいけなかったのか。
 それとも私が、貰い手探しに奔走していることを察知したのだろうか。   

或る日、窮余の一策として思いついたのが、風呂場の湯桶の中だった。そこなら、外にも出られるし、隠れるべき家具もない。湯を抜いた湯船にタオルを敷いて、水と餌を入れておけば、子猫を連れ出す場所もない。
 そう思ったのは人間側の考えだった。帰宅して風呂場を覗くと、ルリだけが、のそりと部屋に入ってきた。風呂桶のそこには、餌が散らばっていたが、その中に、排便らしきものもあった。まさか、子猫を風呂桶の下にでも隠したのだろか。みんなが帰ってくるまで、風呂場も使えなまま夜を待った。
ルリは隠した子猫が気にならないのか、平然としていた。
 やはり母性本能のない猫なのだなと呆れていた。とんでもないところに置いてきて忘れてしまったのか。あるいは捨ててしまったのか。あの隠すという行為は誰に隠すのか。今は、何にもなかったように部屋の中に蹲っているのも不可解な行動だった。 
「ルリちゃん、子供はどうしたの」
 そう言ってみても、意固地なくらい気取った正座の姿を崩さなかった。

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