なわばり

 ルリはあいかわらず、我が家の前を、というより我が家のまわりをうろつく犬も猫も許さなかった。人間が引っぱっている散歩の犬に襲いかかった。まるで、その犬を連れている人間の存在など無視しているのである。多分、経験した人は、我が家の前を通らなくなっているのだろう。犬なら最初に吠えるから、相手も身構えるのだが、猫の場合は何処からともなく、風のように襲いかかるので、散歩の人も、犬も、ふいをつかれて吃驚するのだろう。
 でも、あのころ、そんな繰り返しは何回もあった筈だが、誰も苦情を言ってくる人はいなかったのが不思議である。もっとも、わたしも、自分の家の猫ではないような顔をしていた。ルリのテリトリーの守り方はまるでオイハギのようだった。
 
追剥ぎとは追って行って、身ぐるみ剥いで奪いとること。もうそんな言葉はあまり使われなくなった。その懐かしい言葉を地元の人から聞いたのは、ルリが家にきてからのこと。
 「子供のころ洗い場のあたりは、オイハギが出たのよ」
 その子供の頃とは、当時からでも40年以上、今からなら60年以上前のことなのだろう。
 家の前の道を300メートルくらい右へ行くと道が突き当たる。そこに洗い場がある。地名が「瀧の根」という、そのあたりから、流れ出す清水が、コンクリートの貯水曹に溜められて、農家が野菜を洗っていた。
 庭に引き込んで、野菜の洗い場を作っている農家もあった。我が家の前の側溝には、絶えず野菜の屑が流れていた。私も子供の泥靴をそこで洗っていた。
 「瀧の根」とはよく付けたものである。『武蔵野夫人』に出てくるハケの類だろう。今は跡形もないが、「瀧の根」由来の湧水は今もあって、公園になっている。

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