養子に出す

61)・・夏目漱石・・   [千夜一夜猫物語]  
夏目漱石の「我輩は猫である」の中の猫は雄だったのか。初めて出会った人間が書生というものであったという。
 この書生の印象は、猫と違ってつるつるでまるで薬缶のようだと述べる。しかし、人間が初めてなら薬缶も始めて見るものだと思うから、その形容は不自然ではなかろうか。
 ルリは最初に出会ったのは、どんな人間だったのか。初めての飼い主である我が家の人間をどんな風な印象で捉えたのだろう。
 とりあえず感情論で言えば、慈悲の父親と非道な母親、その夫婦の女の子、これは歯牙にも掛けなくていいと判断しているのは、ルリの態度でわかるのだった。
 ルリが歯牙にもかけなくていい娘には、子猫に近づかないように言い聞かした。情を持ってしまっては困るからだ。貰い手も見つかっているのだし、なるべく、子猫をそっと他所へ移してしまいたいのだ。

(62)・・養子・・
娘が子猫に愛着を持ってしまうのは困るので、早めに養子に出すことにした。
 幸い、一匹の貰い手は、生まれて直ぐの子猫を育てた経験があるので、早くても一向にかまわないと言ったが、一匹残っているのなら同じことなのである。
 わたしの苦衷を察したのか、友人はーーいいわよ、二匹とも見てあげるーーと言った。多分、貰うつもりだった以前の子猫が、死んでしまったから、随分待たされたことにも、引き取る弾みがついたようだった。私にとっては、こんな都合のいい話はない。それに、間もなく連れ合いの実家の法事も控えていた。
 友人は、それぞれの違う毛並みのどちらも気にいったようで、縞柄にしようか、黒の斑柄にしようか迷っているようだ。
 「安寿と厨子王は別れ別れに舟に乗せられらんだったかしら」
 「母親と別になったんじゃないの」
 助手席に置かれた子猫は、藁仕上げの籠にいれられたが、友人は体を半分に折って中を覗きこんでいた。
 私はどういう結果になっても、一向に影響しないので、黙って彼女の迷いを眺めていた。

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