避妊手術

(72)・・避妊手術・・    
 避妊手術のために三日間、動物病院に預けておいたルリを貰い受けてきた。
 手術費一万円也。
 ルリのお腹には真中に十五センチほどの傷が縦に走っていた。一週間くらいしたら抜糸にくるように、という事だったが、ルリはその傷口が気になるらしくて絶えず舐めていた。包帯を捲いてもそれを食いちぎろうとするので、無駄だった。
 文鳥を狙うことは禁じられたが、お腹の傷はどうしても気になるらしかった。病院では、どうやって傷口を防いでいたのだろうか。
 ルリは舐めているだけではない、傷口を縫っている糸を抜きはじめた。傷を縫い合わせている糸は一針ごとに独立しているようにも思えた。いや、そんなことはない筈だ。
 横に渡っている糸を一本ずつ食い千切っていくのだろう。ときどき、長さ三センチずつくらいの糸が床に落ちていた。一週間経ったときには、すっかり糸はなくなっていた。
 呆れ顔で家族が眺めている中で、欅落葉を前足で弄んでいた。十一月に入ると、農家の欅が部屋の中にまで舞い込んでくるのである。

(73)・・初冬・・  
落葉が座敷の中で、風に立ち上がっては走り出す。走るたびに乾いた音をさせた。それをまたルリが追いかけていた。
ここに住みはじめたときは、昭和40年。秋には東京オリンピックが開催されて、朝霞自衛隊駐屯地の中で射撃種目が行なわれた。
 まだ道は舗装ではなく、乳母車が押しずらかった。
 引っ越してきたときに、なんと田舎なんだろうと思った。
 だが暫くして、家の前の雑然と残っている、雑木林と神社のような農家の畑の空間が楽しい眺めになった。
 たしか、東京オリンピックの後、まもなく道という道が、舗装路になったのだ。

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