モルモット

(86)・・モルモット・・  
連れ合いが、兎のようなものを抱いてきた。夜道で目の前に飛び出してきたのだと言う。
「うさぎ?」
「耳の短い兎なんていないよ、モルモットだよ」
そう言われてみれば、兎ほどの大きさだが、顔は鼠に似ていた。
「どこかで飼っていたんでしょうね。ほっとけば帰るんじゃないの」
以前、文鳥を逃がしてしまったときに、鳥籠を軒下に吊っておいたら帰ってきたことがあるからである。
「どうかなー」
連れ合いばかりがよく小動物を拾ってくる。
ルリが覗きに来た。このくらい大きければ、ルリが襲うこともないだろうと思ったが、念のために、「ダメヨ、を繰り返した。
ーーわかっているよ、それよりまだ夕飯食べていないよーーとばかりにいつもの、いつも食器を置く位置に座っていた。
ひとまずは、笊でも被せておけばいい。明日は、「モルモットを預かっています」と書いて、屏に貼り付けておくことにした。

(86)・・母性・・    
何時もの場所、何時もの食器に夕食を入れた。
魚のフレークをご飯にまぶしたものなので、モルモットも食べるのかな、と思いながら、食器に近づけてみた。
空腹だったのか、「頂きます」の儀式もなしに、わき目も振らずに食べ始めるのだった。
ルリはと言えば、それを、後に控えて見守っているような、順番を待っているような、控えかただった。食欲が今日はないのよ、というわけでもないのだと思うが‥‥静かだった。
まさか子猫だと思っているわけではないだろう。
たまには意地悪をして、食べている最中のお皿を取り上げてみたことがあるけれど、
そんなときは、こんな風におとなしくはしていなかった。唸り声をあげて怒ることもある。
モルモットも他人の家、それも先住者を差し置いて、遠慮することもなく食べていた。動物同士の秩序も不思議である。

暫くルリにモルモットを預けておいた。というよりも、ルリがまるで吾子のように嘗め尽くすので、引き離すわけにはいかないのである。娘も抱きたいようだったが、あまりにルリが慈しむので、抱き取る隙がなかった。
ところが、モルモットのほうは、あっさりしたものである。そんなルリの体温が鬱陶しいとばかりに、ルリの下から這い出して、長椅子の間に潜り込んだり、反対から出てきたりして動き回った。もしかしたら、自分の居場所を探しているのか、見慣れぬ家の雰囲気を探っているのか、落ち着かなかった。
ルリはといえば、部屋の隅で、それを見守る母親役を演じていた。
今夜は何に入れておけばいいのか、探してみたが、モルモットを入れておく籠などあるわけがない。文鳥を籠から出すわけにもいかないし。
連れ合いが、籠を伏せた中に入れて、上から本を載せておいた。

92・・飼い主・・
夜になって家族が揃うとひとしきりは、籠から放してあげた。飼う気がないから、未だにモルモットの籠はない。餌もない。ルリに上げるために用意した食器から相変わらず、モルモットが先に食事を済ませるのである。
その間、ルリは必ず後に控えているのだ。あきらかに、子供の食事を見守っている母親の姿だ。三日経っても持ち主は現れなかったので、
「困ったわー、文鳥がいて、モルモットも飼わなければならないなんて大変じゃない」
そうは言ってみたが、実際の餌係りは連れ合いである。
人並みに心配するのは、なんだか可笑しいような気もしてきた。
それでも、家の中にそんなごちゃごちゃ居るのは鬱陶しいではないか。
寒さは厳しくなるばかりだったから、おき場所も考えなくてはならない。
我が家に懐きはじめて、食事の場所に誰かが立つと、餌を呉れるのかと思うらしくて、喉の奥のほうからクークーというような声を出す。
飼い主が現れたのは四日目だった。寒林の向こうの家よりもっと遠いところから逃げ出してきたのだ。
我が家にモルモットの居ることが分かったのは、張り紙を見た友人が教えてくれたからだとのこと。大きな菓子折りを置いていった。
モルモットが仮のものだったことを、娘もルリもわきまえているようだった。
やれやれ

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