雪国

112・・雪国・・  
「ルリに餌!」
「はいはい!」
連れ合いは元旦も忙しい。
実家の六日町へ行かなくてはならないから、ルリのための居場所と餌を用意しなければならない。
わたしたちは、毎年元旦に連れ合いの実家である六日町まで行かなくてはならないのである。
そのときのルリの処遇が悩みだった。車に乗せればいいのだが、近所の家で千葉まで車で運んだら死んでしまったのである。
以前犬を飼っていたときも、車に乗っているあいだじゅう涎を垂らしていて、苦しそうだったので、体の小さな猫なら尚更影響があるだろう。
仕方がないので、飼い始めてか毎年、餌を風呂場において行くことにした。と言っても、いくらもの分かりがよいるりでも、その餌を五日も持たせる智恵はないだろうと思って近所の人に頼んで置くのだった。
近所の人に2日位したら、風呂場のでは入り口の窓の下に置いてもらうのである。風呂場の中に、電気アンカを入れた箱を用意した。部屋には入れないような工夫もしなければならなかった。
「お留守番ですよ」
ルリは、いつも留守になることには慣れていた。犬のように鳴き続けることもないらしい。

113・・雪国・・  
当時は関越道がまだなかった。だから十七号線をただひたすら走るしかない。三国山脈はもう雪で真っ白、大概途中でチエーンを巻く作業がある。苗場までくると一休みするのは、そこだけ都会風な喫茶店などもあるからだ。
たまには、実家から足を伸ばしてスキーにもやってくる場所で、そこまで来ればもう実家についたようなもの、ほっとするひとときでもある。
苗場までくれば、もう下り道。下りきったところが越後湯沢。
川端康成の『雪国』のトンネルを抜けると雪国で書かれている場所である。
その辺りからは、どこもかしこも雪で真っ白である。きれいであると同時に、都会育ちの私に取っては寒さが堪えるのだった。そんなに寒いのだから、家中を暖房すればいいようなものだが、そうはなっていない。トイレに行くたび、風呂場へ行くたび、寝室に移動するたびに寒い。

114・・雪国・・   
温泉地だから、銭湯も温泉である。
実家から五分くらいのところに、その銭湯はある。何処にでもある銭湯の構えで、朝の5時から入れる。雪国の寒さは、ことに夜に発揮される。
誰かが、濡れた手拭いを振り回せば凍ってしまう、と言ったが、それは本当なのである。
一番喜んだのが娘である。
なにしろ、手ぬぐいが棒のように硬くなるのだから、不思議におもえるだろう。
5分の夜道が、風呂上りには限度である。それ以上戸外にいたら、折角の体が冷えてしまう。
兄弟のそれぞれの家族が一塊になって家に着く頃は、振り回さない手ぬぐいも硬くなって、一本の棒になっていた。

(115)・・雪国・・  
家の中に入ったら暖かい、というものではない。廊下を足早に通ってストーブと炬燵の或る部屋に入って、やっとほっとする。
だが、女性群はそこに落ちつけるとは限らない。
お燗をつけるために、お料理を運ぶために、台所を往き来する。
居間のとなりが台所なのだが、いちいち障子をあけて廊下に出てから台所の戸をあける。
お皿を運ぶたび、料理を運ぶために、居間の障子と台所のガラス戸を、何度開け閉めすることか。
都会なら、絶対居間と台所は続いているのに。
それを不便に感じないで暮らすのである。
その台所にしても、大きなテーブルが真中にあって、そこで、十分に食事が出来ると思うのに、ただただ、盛り付けた料理のための台でしかない。
台所は料理を作るところという、概念に揺るぎがない。
「喜代子さんには住めないわねー」
と、もうひとりの兄嫁が言う。
「いやー、住めないことはないと思うけど」
「無理だとおもうわー」
と義姉がいう。
「ダメヨー、カルチャ−センターがないもの」
何と、その発言は娘だった。それまで、居ることも忘れるほど、黙って私たちの会話をきいていた娘が、突然ことばを挟んだ。
私は、普段、何を習っているとか、どんな所に通っているとか、ことさらには、家族に言っていない。なのに、娘はなんだか母親がカルチャーセンターなんていうものに行って、いきいきしているなー、と感じていたのだ。

116・・
留守番をしているルリの餌係りを頼んでおいた家から電話があった。
ルリが餌を食べないと言うのであった。
「上げた餌が全く減ってないのよー」
きっと、電話の向こうで二宮さんは体をくの字に曲げて、傾いた顔に受話器を乗せるようにしながらしゃべっているのだろう。困ったときの何時もの癖なのだ。
「でも、まだ風呂場にたくさんあるのかもしれないわ」
「それでも、こっちはキャットフードじゃないのよ。マグロの刺身よ」
「えー、なんでそんな贅沢をさせるのよー」
「だってー、食べないから、だんだんエスカレ−トしちゃったのよ」
「三日分くらいは置いてあるはずだから、あとは帰るまで食べなくっても死なないわよー」
「でも、表にも出てこないのよ。あれから1度もルリちゃん見ていないのよ」
「大丈夫よ、奥さんが知らないときに出入りするのよ」
とは言ったものの、なんだか不安になってきた。

117・・雪国・・   
部屋へ戻って電話の経緯を伝えると、なんだか、娘も連れ合いも落ち着かなくなった。
でもなー明日は、スキーの予約もしてあるし、と思い巡らしていた。
姑は、にこにこと連れ合いをみながら、
「やっぱし飼っているんだね。ショウちゃんは猫が好きだもんね」
というのだった。きっと猫は子供の頃から飼いなれているのだ。
「夜になると、隣の猫がショウちゃんの布団に寝るのよ」
「へー」
みんなは初めて聞く話に目を見開いた。
私は、この雪の中を、どうやって猫は通ってくるのかと思った。
「だから、その猫が死んだときは、半日泣いていたわ」
「へー」
と、みんなは、さらにまた目を見開いた。
動物好きというのは生まれつきなんだなー、とあらためて感心もした。

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  1. 如果你不给自己烦恼,别人也永远不可能给你烦恼,烦恼都是自己内心制造的。

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