老衰

(109)・・老衰・・
近所の家のともさん、という猫が病気だいう。
「どうなの、ともさんの具合」
「老衰だっていうのよ」
開けてあった縁側から覗くと、ともさんは、座布団の上に横になっていた。というより、腰が立たないらしい。子供のない夫婦で大事にしていた猫だった。
座布団が、猫の身丈に合っていて、タオルが掛け布団代りのようにかけられていた。横になるというのは、人間で言えば寝ることを意味していたが、猫もまさに、横になって寝ていた。
「トイレとかはどうするの」
「時間で外に、連れ出すのよ」
ほんとうに、腰が立たないのだ。
当のともさんは、と言えば、そんな私たちの会話が聞えているのか居ないのか、目だけが動いていた。
その生活が慣れてしまった、というように、起き上がろうともしないで、鷹揚に構えていた。
猫は死ぬときには、人の目に触れないところ身を隠すというけれど、これではそれも出来なだろう。
(110)・・老衰・・  
ともさんの家と我が家とは、数分の距離だったが、ルリと面識があるのかどうか分からなかった。相変わらず、ルリは我が家の前の道を己の縄張りであることを主張していたから、たとえ、ともさんが近寄ってきても、追い払っていたかもしれない。
でも、黒の斑の子猫が生れたことがあることを思い出した。ともさんだけは特別だったなんてこのも考えられないわけではない。いつだったか、一週間ほど家出をしていたことがあったが、そのときともさんはどうだったのか。
間もなく、ともさんはいなくなった。
食事もしなくなったので、夫婦で見守っていたのだが、真夜中に死んだのだという。
そんな話を、立ち話で聞いた。
「ともさんは、何年くらい居たの」
「13年くらいだったかしら」
「えー、猫ってそんなに長生きするんですか」
ルリは、我が家に棲みついてから一年ほどだから、まだ2,3歳。
111・・ともさん・・  [千夜一夜猫物語]  
飼い猫が死んだといわれたら、
「ご愁傷さま」
なんていうのだろうか。
「それは‥‥」
くらいしか、私には言えない。
幸い、もとさんの飼い主は淡々と語ってくれたので助かった。
涙なんか流されたら、なんと言っていいのか困ってしまうだろう。
人によっては、猫のお葬式をする人がいたりするけれど、なんだか、おままごとのように滑稽に思える。

「あらカッコーだわ」
そう言いながら、ともさんの飼い主は声のほうへ目を移した。
このあたりでは、五、六月の間だけ鳴くのである。
おかげで、ともさんの死んだ話はおしまいになった。

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