十七号線

118・・雪国・・
五日に帰るつもりでいたが、四日に変更した。
 「近所に迷惑をかけられないよ」
という連れ合いのことばに、この場合は従うしかない。
 帰省ラッシュの最中であるが、余り早立ちは出来ない。三国山脈の山道は朝は凍っているからだ。どうかすると、日陰の道は、真昼になっても凍っている。道の溶け出した昼頃出発して、山を越えてしまうまでは、用心が必要だ。
 「昔は歩いて越えたんだね」
と娘は言う。
「そうよ、車なんてなかったんだから」
「野麦峠って何処にあるの」
「なんで」
「だって、昔は野麦峠を越えて、ハタオリに行ったんでしょう」
娘は、最近「ああ 野麦峠」を読んだばかり。物語の中の女工が自分と同じくらいの年齢であることに、女工哀史の実感を深めているようだ。
昔の人は、本当に我慢強い。
今、同じことはできないな、とふと思った。
野麦峠ならぬ、三国峠では、あちらこちらで、スキー場が見えて、スキーヤーが斜面を流れるように動いているのが見えた。雪景色の中だから、色とりどりのスキーウエアーがことによく見えるのだった。

119・・雪国・・    
『お父さん、野麦峠も通りたいな」
突然娘はとんでもないことを言い出した。
方向音痴の私はときどき全く正反対の場所に「ついでに寄って行って」などと言う。
本当に地理が頭に入っていないのだ。大体日が昇るから東、そして、夕日が落ちていくから西の空なのだろう、と判断するだけで、東西南北などつかめない。
娘もまた、野麦峠が、どこか寄り道すれば行けるのかかと思っているのである。さすが、わが娘である。
「何言ってるんだ。野麦峠なんて一山も二山も越えなくてはいけないんだ。それより、冬なんてきっと通行止めになっているよ」
真冬はたしかに、交通止めになっている道は多い。
その上、当時はナビゲーターを使っている人もいなかった。

120・・雪国・・
十七号線が貫いている三国峠は、山肌をぐるぐる回りながら県境を越える。日面の道は乾いてたが、日陰の道は、凍っているところもあった。
そんな道でも、平地並の速度で追い越していく車がある。カーブばかりの道だから、追い越していった車は直ぐに見えなくなった。
「アブナイナー、そんなに忙なくったっていいのになー」
と呟いているうちに、なんと今追い越したはずの車が眼の前に真正面から現れた。いったいどうなっているのか。
よほどの技術がなければ、この山道で向きを変えるのは難しい。第一、向きを変える時間などないような、とっさの出来事だった。
山肌の道はカーブの連続だから、対向車は突然姿をあらわす。対向車とはあやうく正面衝突しそうになっていた。
車は、辛うじて我が家の車を避けて谷側のフエンスにぶつかって止まった。フエンスの外側は千尋の谷底。
スピードを出しすぎて、制御できないまま、向きが変わったようである。
わたしたち一家は何事もなかったかのように家路を辿った。
衝突しそうになった車にしても、やはり何ごともなかったように目的地に向ったことだろう。
凄い惨事になったかもしれない現象であったが、時間にすれな30秒ほどの出来事だった。

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