みずいろの九月の空に指紋あり
秋うらら猫に人生相談する
電話ボックス寒夕焼が先にいる
猫のあしあとが空までつづく春
山笑う象もうぶ毛を持っている
あわゆきにふれるセロリは海の色
もーにんぐ珈琲秋風を待っている
橙や国のまわりの波がしら
振り返り振り返りして散る木の葉
どの首も頭があって春の山
万緑や家が建つまで釘の音
雨雲の生れはじめは蝌蚪の紐
体ごといつか出てゆく木下闇
人はあることないことを俳句作品にしていくのかもしれない。その無い事をあることに替えるのは作者の心であり、作者の表現力の冴えである。
電話ボックスに夕焼けが差しているのではない。電話ボックスに先に夕日がいた、というのはレトリックとも違う。空に指紋があると言われて宜い得ない人は、この句集の面白さがわからない。猫に人生相談をして、猫の足跡を空まで続くのが見えるのも才能というもの。「雷魚同人」