『青垣』4月号 主宰・大島雄作

作品の秀峰   評者 川島一美

   狼の闇の見えくる書庫の冷え        岩淵喜代子
    寒禽や匙はカップの向かう側
                                  (「俳句」二月号)

  程度の表わし方というのは難しい。これ位!と言って、両 手を広げてみせるシンプルなものから、それってどういうこ
 と?と訝るものまでさまざまだ。この作品にある〈冷え〉の 程度はすさまじい。〈狼の闇の見えくる〉冷えだと言うのだ。
 大胆であり、緊張感がある。しかし案外目的の本を探してい るうちに、狼に関する書物が目に入ったのかもしれない。〈書 庫の冷え〉というものが引き出した詩だ。
  「寒禽や」の句にも惹かれた。窓外には〈寒禽〉が居て、飲 み物に使った〈匙〉をカップの向う側へ置いた、と言うだけのの景だ。しかし温かい飲み物をかき回した匙からは多少の湯 気が立っているだろう。いつものように向う側へ置く行為は、 向う側に居る〈寒禽〉へ近づけること。無機的に詠んでいるが、 作者の優しい眼差しが感じられる作品。

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