増成栗人句集『逍遥』角川平成俳句叢書

昭和8年生れ 「河」を経て「鴻」主宰

   去年今年耳を冷たくしてゐたり
   蟇老ゆるといふは面白き

 一句目の決して声を張り上げて主張するのでもなく、過ぎ去る時間を、あるがままに享受している姿。二句目はそれをさらに積極的に生きる姿に繋げている。いずれも好感の持てる老いの詠み方である。

   末枯に二羽の雀を加へけり
   近付いてしまへばただの一冬木

 一句目、ただ眼前の風景だけなのに、この温みはどこから来るのだろう。何気なく見ていた末枯の風景に雀が降りてきた。というよりも、視野の入ってきたのだ。それを「加えけり」と自動詞にすることで、わが風景にしている。
 二句目も捉え方としてはい「末枯」の句と同じ視線だ。何気ない視野、その中に映し出される映像の変化のあるとき、ある瞬間に視点を留めている。自然諷詠がそのまま詩になるというのは天性の詩人である。

   溶けさうな母を春野に置いてくる
   裸木の空を一重にしてゐたり

感覚的な捉え方の作品も随所に見られて、癒される作品集である。

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