『運河』2009年10月号・主宰茨木和生

俳誌逍遥     筆者 山 内 節 子
 
「ににん」  二〇〇九年 夏号
 創刊=平成十二年十月・朝霞市  創刊・代表=岩淵喜代子
 同人誌 季刊 通巻第三五号 
 
 岩淵代表は学生時代から詩を書き、俳句は「鹿火屋」で原裕に、「貂」創刊同人として川崎展宏に学ぶ。連句にも造詣が深いと聞く。
 「ににん」創刊にあたって、「俳句を諧謔とか滑稽などと狭く解釈しないで、写実だとか切れ字だとか細かいことに終わらないで、もっと俳句の醸し出す香りを楽しんでいきたい」と語る。
 評論や句評にも力を注ぐ。代表自身も創刊以来、連載評論【石鼎評伝「花影婆娑と」』を重ねて来た。綿密な調査と貴重かつ膨大な資料に基づいたこの連載評論は、筑紫磐井氏が新聞誌上コラムで取り上げたほど。
 残念ながら、これは「ににん」前号の三四回で打ち切り。最終章を附けて、深夜叢書・評伝『頂上の石鼎』として近刊予定という。
 本号ではその予告も兼ねて、『特別企画「石鼎を語る」』と題した座談会を誌上掲載する。出席者はその刊行に当たった深夜叢書代表の斎藤愼爾氏、「大」「なんぢや」の土岐光一氏、文芸ジャーナリストの酒井佐忠氏、「ににん」から清水哲男氏、正雄勉氏と代表。
 普羅と並べて「二人の新人を得たり」と虚子に言わしめた俳人石鼎。彼の人生観、自然観に迫る討論に、この近刊書への期待がふくらむ。
 
 『物語を詠む』は、古今東西の小説や児童書などをテーマに同人諸氏が二十四句を詠む。原典にとらわれない自由な詠み方に、却って俳人の個性や興味の対象が如実に出て面白い。

 岸本尚毅氏特別寄稿コ石森延男の『千軒岳』を詠む」より
   猿曳や猿の義経栗を喰ふ
   黒き海に白き波ある絵踏かな
 
 伊丹竹野子氏「夏目漱石の『草枕』(その二)を詠む」より
   落ち椿地虫に吸はれゐたりけり
   芹薺ほろりと苦き水の角
  
 「ににん集」はテーマ詠。アプローチは各氏各様、ひとり五句ずつ詠む。今回のテーマは「赤」。「赤とは大すなわち人の正面形。これに火を加えることは禍を祓う意がある。」と。この会意文字「赤」の意味も踏まえ、句を拝見。
   赤い糸切って静かや芙美子の忌    四宮 あきこ
   赤牛の乳はとばしる夏木立       武井 伸子
  
「さざん集」同人自選五句より
   膝埋めて合掌の屋根葺き替へる    宇陀 草子
   茄子一生食ふ夢を見し寝汗かな    木津 直人
 
 木佐梨乃氏の【英語版奥の細道を読む】は、ドナルド・キーンの訳文と原文を比較解説。他、充実の連載評論や句評エッセイなど、同人一人ひとりの俳句意識が高い俳誌である。

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