1934年生れ 「天為」同人・「八千草」主宰 栞・小澤克己
桐一葉ちから抜くこと覚えけり
寒灯をすこし脚色する自伝
春はあけぼのなぁんてトースト焦がしてる
水母見し夜は家中が漣す
水割りの氷ゆさぶる夜の霧
クリスマス家々みんな玩具箱
初簾外からわが家の中を見る
難しき貌の鮃は裏返す
大驟雨ひつくり返る逗子海岸
石鹸を洗ふ日もあり芋嵐
海底の愚痴をきくかに喰む海鼠
押す風は返す風なり葛の花
思惟的な「桐一葉」「初簾」「石鹸」「海底」と、感覚的な「水母」「クリスマス」「大驟雨」など。そして諧謔的な「春はあけぼの」と多彩な作り手である。
もともと、志津香氏は連句に造詣が深い。連句の諧謔から学んだものが、作品への膨らみとなり、収まりかえってしまいがちな俳句形式を揺さぶっている。「春はあけぼの」などにその連句の影響が顕著。