昭和12年生まれ。長年にわたって『杉』の編集長だった榎本さんは、表現に独特のことば選びをしている。それはすでに榎本調と言っていいだろう。
独活食うて世に百尋も後れけり
猫抱かせもらふ荷風の忌なりけり
八重ざくら貧しきころは池へ石
鷹渡るはずもなけれど遠見せり
子供らに隠しどころや百千鳥
糸を吐く夏蚕のほかは真闇にて
なかでも「猫抱かせもらふ荷風の忌なりけり」の句は、忌日の句としても秀逸。なんでもない日常の中に、ふ気がついた荷風忌を呟くように表現している。
榎本さんのお仲間である「件」の方々全員の鑑賞が豪華に栞になっている。