『俳句四季』九月号掲載 i岩淵喜代子発表句16句より

鑑賞・横松 しげる     (『遠嶺』12月号主宰・小澤克己   

  麨のはるかな味に咽にけり       
  
 麨は関西でははったい粉、関東では麦こがしと言う。江戸時代から旅の携行食として利用された馴染みのあるもので、ある年代以上の人にとっては懐かしさと共にある感慨を催す食べ物だが、今の了供たちにとって〈麨〉はどんな
味なのだろうか。 掲出、本当に久しよりに口にした〈麨〉の味に、懐かしさが甦って思わず咽せてしまったという気持ちが〈くはるかな味〉に籠められている。むかし、母が作ってくれたはったい粉を口に含むと心許ない薄い甘さが広がり、何か切ない感じがした覚えが作者にもあったのだろうと椎察した。筆者には〈麨〉ではなく「麥こがし」だったが、掲句を読んであの時代の一駒を懐かしく思い出した。
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鑑賞・平田雄公子          (『松の花』 主宰・松尾 隆信 )

    緑蔭といふ何もなきところかな   

「緑蔭といふ」満ち足りた、安息空間、其処に有るもの、無いもの。掲句の「何もなきところ」とは、不意打ちを食らったよう。寓意のような、ご宣託のような、そこは短詩型の申し子というべき、句。

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鑑賞・吉田千嘉子              『たかんな』 主宰・藤木具子

   牧開くとて一本の杭を抜く    

厩出しをした牛馬を牧野に解き放つ牧開き。牧を開くために、杭一本抜くのであるという。大きな扉があるわけではない。毎年大山桜を見に行く、岩手県北の七時雨山の裾野にある牧場もこうであった。杭一本抜くだけで別の世界が開かれる。今の世の中に、こんなに単純でおおどかな開放があることが嬉しい。

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