『描かれた食卓』と『無灯艦隊』

『描かれた食卓』磯辺勝著 NHK出版

この本は、1996年からはじまったNHK出版「男の食彩」から7年間66回にわたって連載したものから37編を一書に成したものである。
磯辺さんは一年ほどまえまで、「ににん」にも江戸俳画紀行を連載していた方で、絵を語ることが自然に身についたモチーフになっているのかもしれない。最近の大きな仕事では『NHK世界美術館紀行』がある。
この一書はすべて、食事風景の絵を鑑賞している。
磯辺さんの語り口は、絵の世界の中から語っているような臨場感があふれているので思わずも引きこまれてしまう。
たとえば、ヨルダースン「酒を飲む王」にしても、‥‥‥パッと見ただけでも騒がしい絵だが、よく見るといよいよ騒々しい。王さまの後ろでは、頬をふくらませ、戸外で聞いてもやかましいバタパイプを室内で思い切り吹き鳴らしている。‥‥‥おそらく、画中のその他の人物にも、それぞれモデルがいて、絵ができあがったとき、「えっ、これ俺かい? これはないよ」などと言い合って大笑いしているに違いない‥‥」、とこんな具合に絵を楽しませてくれるのである。
日本の絵では安田靫彦の「憶良の家」では、われわれの知っている貧窮問答歌の憶良のイメージを払拭させてくれる解説がなされているので、まさに蘊蓄を傾けるとはこうしたことなのだと、感銘を受けた。

 


 

句集『無灯艦隊』西川徹郎著 沖積舎

   
不眠症に落葉が魚になっている

作品集の冒頭の一句である。
いつだったか、この俳句に衝撃を受けて、しっかり心にとめた日のことを思い出した。
たぶん俳句をはじめてからそんなに日を経ていない時期だった。作者まではインプットしないまま、月日を過ごしていたが、あらためて、この作品の作者が西川徹郎という作家だったのだと確認した一書である。
今回の句集は作者の十代作品集の再刊なのである。
わたしなどは、西川徹郎と対極にいるので、この作家に縁のないまま今日になっていた。従って、頂いたこの句集によってはじめて名前を意識しながら、作品を読みすすんだ。

  耳裏の枯田にぐんぐん縮む馬
  父の耳裏海峡が見えている
  炎昼の船倉しんしん針が降る
  冬の街どこかで鈴が鳴りて消ゆ
  死んではならず金星耳の裏に生え

などと拾ってゆきなががら、やはり冒頭の「不眠症に落葉が魚になっている」を越える共鳴句はなかった。

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