『水明』 主宰・星野光二  「句集喝采」筆者・田村みどり

◆岩淵喜代子『嘘のやう影のやう』   東京匹季出版

 著者略歴 1936年東京生。▽1976年「鹿火屋」入会。1979年「詔]創刊に参加。2001年句集「蛍袋に灯をともす」により第一回俳句四季犬賞受賞。現在「ににん」代表。俳人協会、日本ベンクラブ、日本文芸家協会会員。句集四冊。
 
 齋藤慎爾氏の著者への頌は「陸沈の佳人」。陸沈とは俗世を超越したすぐれた人が、世間と俗人と同じ生活をしていることをいう。
 氏は「孤独な世界、さしあたって俳人達に背をむけた世界を歩こうと決意した俳人が、やむなく俳壇のパーティに出ざるを得ないような時、著者は俳人たちが華やかに回遊する喧騒の只中で、悠揚迫らぬ態度で、遠目にも涼やかに沈んでいるのだ」という。
 私は数年前、たまたま著者の「逢ひたくて蛍袋に灯をともす」という句に出逢いショックだったけれど、今にして思えばだった。

  草餅をたべるひそけさ生まれけり
  白魚を遥かな白馬群るるごと
  一艘も出る船のなし雛あられ

 句集を幡くとすぐに独特の著者の世界が、尽きることなく湧く泉のように広がって来る。

  暗がりは十二単のむらさきか
  暗黒の芯を力に野焼きの火
  春眠のどこかに牙を置いてきし

 これはもう天性の感覚としか言いようがないと嘆声と共に読み進める。
  
  嘘のやう彭のやうなる黒揚羽
  三角は涼しき鶴のの折りはじめ
  雑炊を荒野のごとく眺めけり
  老いて今冬青空の真下なり

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