「ににん」
代表岩淵喜代平氏は昭和十一年生れ、原裕・川崎展宏に師事、句集『朝の椅子』『硝子の仲間』他があり『蛍袋に灯をともす』により東京四季出版の第一回俳句四季大賞を受賞。
「ににん」は四月(春)七月(夏)十月(秋)二月(冬)の年四回の発行で、手元の二〇〇八年八号は第三十号であるから、創刊されて八年目ということになる。
手元の春号では俳句欄は二十六名による「ににん集」、二十九名による「さざん集」があり、双方の出句者はほとんどが共通であることから三十人ほどの同人で運営されていると推測される。
[ににん集」の出向者は五句すべてに「円」を読み込んでいるのでこちらは所謂題詠、「さざん集」は雑詠欄ということになるのであろうか。
鳰の眼や円らなれども動かざり 上河内岳夫
春の堤防ふと円熟のつまらなさ 木津 直人
遥かなる円周率を券の蟻 松浦 健
春来ると円空仏のやうな顔 岩淵喜代子
ちなみに「さざん集」から同じ作家の句をひいてみると
見上ぐれば白き富士あり霜の道 上河内岳夫
つちふるや銃砲店に「銃」一字 木津 直人
何もせぬことが尊し大海鼠 松浦 健
田遊びや根雪を闇へ片付けて 岩淵喜代子
「ににん集」のおきな特色は大多数の俳誌に共通の「主宰による選」が無いことである。のみならず「句評」も一切ない。出句者はすべて五句ずつ掲載され、わらには「ににん集」「さざん集」ともに掲載は作者名五十音順送りで、代表の岩淵氏さえその例外ではない。
また冒頭二頁に亘って掲載の「物語を詠む『伊豆の踊子』筆者:伊丹竹野子」、は文字通り川端康成の小説「伊豆の踊子」のストーリーを追って二十四句の作品にするという大胆な試みである。
踊子や天城の宿の朝寒し
朝霧や夕べのままの薄化粧
長襦袢落菓にかさね旅寝かな
踊子と泡沫の恋冬隣る
しかしこの俳誌の中核は代表岩淵氏による「原石鼎評伝」であろう。第二十九回[行く春の近江涜わたる烏かな]四頁、第三十回「われのほかの涙目殖えぬ庵の秋」六頁を一挙掲載で、総頁数五十六頁の二割近くを割いている。
そのほか「私の茂吉ノート」田中庸介氏五頁、「預言者草田男」長嶺千晶氏四頁等多くの紙数を俳論等に割いている。
執筆頁数に応じて同入費を負担するという独特のシステムが[ににん」の経営と執筆者の自由を支えているようだ。
『円虹』主宰山田弘子 二〇〇八年七月号から 筆者・浜崎壬午