句集『冬夕焼』 金子 敦 ふらんす堂刊
著者は1959年神奈川生まれ。この句集は第三句集。
最近、ご母堂を失ったようで、後書きには「今は亡き母に捧げます」ということばが添えられている。
色彩も鮮明、輪郭も明確な構図の明るさがことにいい。
春雨の雑木林に銀の猫
夏果つるパスタの中に小さき貝
花吹雪連れて黒猫やつて来る
寒林を抜け太陽と出逢ひけり
一句目の銀を主題にした映像化。二句目の静物化。三句目の色彩感。四句目の太陽のなんともみずみずし。すべてが、繊細な叙情で統一されている。他にも、作者の呼吸の聞える句がたくさんある。
花吹雪浴びながら行く神経科
秋の海なにか喋つてくれないか
床の間の芒に風の届かざる
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句集『百年』 鍵和田袖子 角川書店
帯に「母が百歳で他界した。書名を決める時、不意に「百年」の語がうかんで来た‥‥」とあるが、ことに100年の句があるわけではない。鍵和田袖子といえば、新人賞のときの「未来図は直線多し早稲の花」という句の印象がいまも鮮烈である。
あれから第八句集に到るまでの道程を想像するような気持ちで読み進んだ。
男ひとり消して真昼の桃畑 の彼の世、此の世の境。
覗くたび舌うすうすと寒蜆 の人生観。
晩年や花の高さに風さわぎ の達観。
広島忌すつくすつくと柱立つ の象徴性的表現法。
着ぶくれていよいよ獏となりゆくや の放下。
自在になっているが、自在が淡さにつながる不安がある。
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句集『荒神』 伊藤通明 角川書店
まれな大冊で一朝一夕では読めない句集。『荒神』という句集名が示すように、地霊への挨拶句の一集とも言える。
その方向は、春燈の抒情に男ごころをくわえたような手法。
玄海を北に置きたる鏡餅
荒海を神とし夏の来りけり
瞠るべき目をもち蟹の生れけり
念はねば思ひかなはず大花野
日本海かすかに鳴れり蟲送り
己が巣を掴みて立てる夏の鷹
ゆがみたるところに力くわりんの実