陸沈

このところ句集『嘘のやう影のやう』の反響は、齋藤慎爾氏の栞の陸沈という言葉に集中している。感嘆というか、絶句するような驚きというか、とにかく私自信も吃驚するようなはじめての言葉である。17日に書いた俳句鑑賞の転載でも、齋藤慎爾氏のしおりに心をゆさぶられたと書かかれているとおり、陸沈を流行らせる仕掛けになるだろう。

ところが 知る人ぞ知る言葉で、永田耕衣の最後の句集は「陸沈考」である。鈍間で口下手で非社交的で、何処にいても目立たない私を、最高の論理でつじつまを合わせてくれた齋藤慎爾さんは天才である。

何故齋藤さんに栞をお願いしたかといえば、俳壇の輪から外れた人、それでも俳句鑑賞のできる人物と思って見渡したら齋藤慎爾さんしかいなかったのである。だから、もし、断られたらもうほかに頼む人というか、頼みたい人はいないので栞無しで発行するつもりだった。

齋藤慎爾とい人物の認識をどのくらい知っていたかといえば、深夜叢書という出版社を持っているらしい。俳句も以前は作っていて句集もあるようだくらいの漠然としたことしか知らなかった。

一番新しい仕事として知っているのが、「二十世紀名句手帖」八巻の編集者だということ。ほんとうにアバウトな情報。まさに陸沈を地でゆく認識の無さだった。そう思ったのは、以前は全く目に入らなかったやたらと字画の多い齋藤慎爾とう名前が書棚から目につくようになったからである。

例えば瀬戸内寂聴との共著「生と死の歳時記」。生と死にかかわる古今の俳句と二人の文章が面白い。そこで食わず嫌いだった瀬戸内寂聴の文章に引込まれながら読み耽った。中でも瀬戸内寂聴の序文で、齋藤慎爾氏を浮き彫りにしている文章がまた面白い。

ーーだいたい齋藤さんは人間の姿をしているが、私には妖精にしか思えないのでーー嫁ももらわなければ(深夜叢書)なる怪しげな城にひとり立てこもり、御飯なども食べているのやらいないのやら。つまり人間でないから、霞と夢を食べて生きているらしい。--この本はそういう妖精の昼寝の夢から生まれたものであろう。すべて妖精の手品に頼って出来上がった本なのでーー(瀬戸内寂聴)

ご自身の句集も数冊。編者略歴には「現代俳句の世界」・「アサヒグラフ増刊」やらを初めとして齋藤慎爾編「俳句殺人事件」「短歌殺人事件」「永遠の文庫 名作選 (吉本隆明・多田智満子ほか)・永遠の文庫傑作選 (吉本隆明・渡辺京二ほか)大衆小説文庫名作選(植草甚一・種村季弘・澁澤龍彦ほか)など、上げたらきりがない。とにかく凄い量である。いやーこれを先に知っていたら、もしかしたら躊躇ってしまったかもしれない。 知らなくてヨカッタ!!

コメント / トラックバック2件

  1. acacia より:

    いつも忙しい振りの怠け者の私ですが、「喜代子の折々」楽しく拝見しています、
    好きこそものの上手なれ、を実践したいのですが、何しろあれもこれもと興味の赴くままにきょろきょろするのです。
    これからも楽しく見させていただきます。

  2. acaciaさんいつもお立ち寄りくださってありがとうございます。
    これから桜ですね。

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