二日酔い、なーんて書くと飲めそうである。でも昨日の酔い残っているみたいに、何時もより眩暈がする。もともと眩暈の薬をずーっと飲んでいるのだが、今日は何時もよりその度合いが強い。私は下戸なのでビールを一口飲んだだけで、顔だけでなく全身が真っ赤になる。そんな具合だから、ビールのグラスが3分の1くらい空いた頃には、まるで、みんなより先に、2杯目のグラスが置かれているかのような印象である。
でも、赤くなるときはいい。真っ青になるときは大変!。急性の脳貧血寸前の状態になるのである。ビールが血管を広げて、下にみんな血が下がってしまうのである。止まり木みたいな椅子はことに下がりやすい。何だか視野がせまくなって、吐き気もしてくれば、そのあとは、棒のように倒れるしかない。何回かの経験で、そんなときには横になればいいのだが生憎そうなれないときには、路上でもどこでも蹲っているのが一番安全なのだ。
そうしているうちに、頭にも血液が戻ってくるのだが、その貧血状態のときの風景には色彩がない。それなのに、白はいやに眩しい白色なのである。これは夢の中の風景に似ている。そんな見え方のうちに歩きだしたら、また脳から血が下がったしまうので、動けない。こんなときには、誰かが冷たいおしぼりを首筋に当ててくれれば、回復が早い。句会の帰りに途中下車して、自販機で買った罐のお茶を首に当てながら次の電車を待ったこともある。ようやく風景に色彩が戻って視野も広がってきたことを確認して歩き出す。
昨日は、寒いせいか、脳の中が空っぽになることはなかったが、隣の店でコーヒーで落ち着かせている間中、頭が動くと、それ以上に風景が揺れる。多分、歩いたら肩をゆらゆらさせながら歩いているのではないかと思う。
「そうそう、わたしなんか後ろから来る人に背中が揺れているわよ」
なんて言われたことがある、と一緒に飲んだ友人はいう。その友人は酒豪だから、飲むといったら、それは空のグラスがテーブル一面に林立するぐらい飲むときだ。勝手なことを言いまくって、翌日は全く覚えていない。
でも、私の場合は体が揺れても頭までは酔わない。なんたって飲んだと言ってもジョッキ一杯のビールがせいぜなのだから。たまには自分でない人間になるくらい酔ってみたいものだ。そうして、「手を上げたら車は止まるもんなのだ!!」などと街中に聞えるように叫んでみたい。「人の目の前をうろうろ歩くな!!}なんて怒鳴れたら気持ちがいいだろう。カミユ・クローレルのように恋人ロダンの家の窓に石礫を投げられたら、どんなにスカーットするだろう。それなのにただただ、体の自由が失われるだけなのが、ほんとうに理不尽で、情けない。 ににん