和知喜八遺句集『五階の満月』
冬北斗みずからこぼるる車椅子
茄子の馬乗るかと路地に遅れ居り
妻が病み木槿あちこち向きて白
目覚めいて師の梟の鳴くを待つ
赤芽柏に立ち師が見えており
「饗焔」俳句会で発行した前主宰の遺句集。「寒雷」ことに加藤楸邨の影を強く感じる作家。掲出の師は勿論楸邨である。
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磯貝碧蹄館第十句集『未哭微笑』
噴水を咥えて青い馬が佇つ
水無月の水飲む虎に塔の見ゆ
冬眠の乳房へ低き時計音
金色の釈迦の御手にも雛あられ
天へ向く千枚通し鳥渡る
百本の筆の周りに狐火立つ
六月の空へ平均臺藏ふ
俳句を写実と唱えるだけでは、こうした句は生れない。熱量の高い言葉を積み重ねて、魅力的。