山本洋子句集『桜』 角川書店刊
きわめてさり気ない日常なのだが、それに静寂という言葉を被せたいような空気を感じる句集。
掃いてあるところに椿よく落ちる
雨来ては去る一軒家竹の秋
一つ家にひとりで咲いて散る桜
落椿入り日の前につづけざま
裏戸より出でて椿の下を掃く
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中原道夫句集『巴芹』 ふらんす堂刊
と言つて初日の菊も気の迅し
何気なく開いたページで、一句に語らせるという事を、ことさら意識しながら作句するのではないかと思った。そう思いついてからページを繰っていくと、やはりそうした作品が並んでいるように思えた。
どうにでもなる陽炎の中のこと
にはたづみ覗かば虹の控へ室
月見草とぢて雄蕊の片付かぬ
兵児帯の男は金魚陋港の
諸手挙げさくら歩いて来るやうな
春深しどの家も閒引く子のをらず
かげぐちに蒲公英の根の深さあり
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井越芳子句集『鳥の重さ』 栞 西村和子 ふらんす堂刊
改めて、この作家のやわらかな感性に触れたおもいがする。それはまた、西村和子氏のいう心象風景の展開にあるのかもしれない。
びしよ濡れになり海鵜の浮いてきし
風は日を通り抜けゆく野梅かな
遠花火つめたき色を繰り返す
暖房に息ととのへてゆきにけり
春昼の体の中に羽の音
春陰や鳥の重さの砂袋